宅地建物取引業者(以下、宅建業者)が営業を始める際には、一定の資金を供託しなければなりません。この資金を 「営業保証金」 といいます。営業保証金は、宅建業者との取引で損害を受けた一般の消費者が、損害の補填を受けるための仕組みとして用意されるものです。
例えば、ある宅建業者が売主としてマンションを販売したが、代金を支払ったにもかかわらず物件を引き渡さなかった場合、購入者は損害を受けることになります。そのような場合に、営業保証金を使って損害を回収することができます。
宅建業法 第27条(営業保証金の還付)
- 宅地建物取引業者と宅地建物取引業に関し取引をした者(宅地建物取引業者に該当する者を除く。)は、その取引により生じた債権に関し、宅地建物取引業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有する。
- 前項の権利の実行に関し必要な事項は、法務省令・国土交通省令で定める。
27条1項の解説
第1項では、「宅建業者と取引をした者」が、「宅建業者が供託した営業保証金を使って債権の弁済を受けられる」と定めています。
ここで重要なのは 「宅建業者に該当する者を除く」 という部分です。つまり、宅建業者同士の取引では営業保証金から還付請求ができません。これは、宅建業者同士は専門知識を持っており、自己責任で取引を行うべきだからです。
具体的には、次のようなケースが該当します。
具体例1:消費者(Aさん)と宅建業者(B社)の取引
AさんはB社から土地を購入しました。しかし、B社が代金を受け取ったにもかかわらず、土地の引き渡しをしませんでした。Aさんは損害を受けたため、B社の営業保証金から損害の補填を求めることができます。
具体例2:宅建業者(C社)と宅建業者(D社)の取引
C社がD社からマンションを仕入れる契約をしましたが、D社がマンションを引き渡しませんでした。この場合、C社はD社の営業保証金から補填を受けることはできません。
27条2項の解説
第2項では、営業保証金の還付を受ける手続きの詳細は、法務省令・国土交通省令で定めることが明記されています。つまり、具体的な方法については宅建業法ではなく、別の省令で詳細が決められているということです。
この点を詳しく解説していきます。
営業保証金を利用するための手続き
営業保証金から弁済を受けるためには、以下の手続きを踏む必要があります。
① 債権を証明して、供託所に請求する
営業保証金から弁済を受けるには、宅建業者に対する債権があることを証明する必要があります。これは、契約書や裁判の判決文などで証明します。
その後、宅建業者が供託している営業保証金は、「本店最寄りの供託所」に保管されています。債権者(取引をした消費者など)は、本店最寄りの供託所に対して、営業保証金から弁済を受ける請求(還付請求)を行います。
② 供託所の審査して、弁済を実行する
供託所は、債権の正当性を確認し、弁済が妥当であるかを判断します。審査の結果、適正と認められれば、営業保証金から弁済が行われます。これを還付と言います。
③ 供託所は免許権者に通知書を送付する
供託所は、免許権者に対して「還付請求者に対して〇〇万円を還付をしました。〇〇万円分の営業保証金が不足しています。そのため〇〇万円を宅建業者に供託するようお知らせください。」と通知します。
④ 免許権者は宅建業者に通知書を送付する
上記通知を受けた免許権者は宅建業者に対して「〇〇万円を本店最寄りの供託所に供託してください」と通知します。
⑤ 不足額を供託する
上記通知を受けた宅建業者は、還付された金額分(〇〇万円)を通知を受けた日から2週間以内に本店最寄りの供託所に供託しなければなりません。(宅建業法第28条1項)
⑥ 免許権者に供託した旨の届出
上記供託をした宅建業者は、免許権者に「不足した供託金(〇〇万円)を供託しました!」と供託してから2週間以内に届け出をしなければなりません。(宅建業法第28条2項)
還付請求の具体例
Aさんが宅建業者B社(東京都知事)からマンションを購入し、手付金100万円を支払いましたが、B社が引き渡しをしないまま倒産してしまいました。この場合、Aさんは以下の手順で営業保証金の還付請求を行います。
- 債権を証明:契約書や100万円の支払い証明書をもとに、B社に対する債権を証明する。
- 供託所に請求:供託所(東京法務局)に営業保証金の還付請求を行う。
- 審査を受ける:供託所が書類を確認し、適正な請求か審査する。
- 弁済の実行:審査に通れば、供託された営業保証金からAさんに100万円の弁済が行われる。
還付請求できる金額の上限
営業保証金の還付請求には 上限額 があります。還付請求できる金額は、宅建業者が供託している営業保証金の範囲内であり、 全額が保証されるわけではありません。
さらに、他にも複数の債権者がいる場合、供託された営業保証金は債権者ごとに分配されるため、請求額の満額を受け取ることができないケースもあります。
まとめ
- 営業保証金は、宅建業者が消費者と取引する際の安全策。
- 消費者は、宅建業者との取引で損害を受けた場合、営業保証金から弁済を受ける権利がある。
ただし、宅建業者同士の取引では営業保証金から還付を受けることができない。 - 営業保証金から弁済を受けるには、本店最寄りの供託所に請求する必要がある。
- 還付請求できる金額は、宅建業者が供託している営業保証金の範囲内に限られる。
- 還付請求があり、還付されたら、通知を受けた日から2週間以内に本店最寄りの供託所に供託しなければならない。
- 上記供託をした宅建業者は、免許権者に対して、供託してから2週間以内に届け出をしなければならない。
この仕組みを理解し、宅建試験の勉強に役立ててください!
