宅地建物取引士(以下、宅建士)は、不動産取引の専門家として重要な役割を果たします。宅建業法第15条では、宅建士が業務を行う上で守るべき基本的な姿勢として、公正誠実義務、信用失墜行為の禁止、知識及び能力の維持向上について定めています。本稿では、これらの内容を具体例を交えて分かりやすく解説します。
公正誠実義務(宅建業法第15条)
宅地建物取引士は、宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならない。
宅建士は、宅地や建物の取引を行う際に、取引の専門家として適切な助言や重要事項の説明を行い、消費者が安心して取引できる環境を整える責務があります。
そのためには、公正な立場を保ち、誠実に業務を遂行することが求められます。たとえば、物件の欠陥やリスクを知りながら故意に説明しなかったり、虚偽の情報を提供することは、公正誠実義務に反する行為とみなされます。
具体例:適正な説明を行う場合
◎ ケース1:
売主が「このマンションは静かで住みやすい」と言っているが、実際には近くに繁華街があり夜間でも騒音がある場合。
➡ 宅建士は、物件の正確な情報を購入者に伝える義務があるため、「繁華街に近いので、夜間は騒がしい可能性がある」と説明する必要がある。
◎ ケース2:
中古住宅の売買で、過去に雨漏りの修繕歴があるが、売主が「言わなくていい」と指示してきた場合。
➡ 宅建士は、購入者に対し修繕履歴を適切に説明する義務があるため、売主の指示に従わず、事実を伝える必要がある。
信用失墜行為の禁止(宅建業法第15条の2)
宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。
宅建士は、その業務が取引の相手方だけでなく、社会全体からも信頼されるべきものです。そのため、宅建士の信用を損なうような行為は厳しく禁止されています。
信用を失墜させる行為には、職務上の不正行為だけでなく、職務とは直接関係のない私的な行為も含まれます。たとえば、不正な契約の仲介、虚偽の説明、横領、詐欺行為などがこれに該当します。
具体例:信用失墜行為に該当するケース
✖ ケース1:
宅建士が、自分の親族が経営するリフォーム会社とだけ取引を行うように顧客に強く勧める。
➡ 公正な取引を歪め、消費者の利益を損なう行為であり、信用失墜行為に該当する。
✖ ケース2:
宅建士が、売買契約の際に重要事項の説明を省略し、購入者に不利益な契約を結ばせる。
➡ 宅建士としての責務を果たしておらず、信用失墜行為に該当する。
✖ ケース3:
宅建士が、飲酒運転で逮捕される。
➡ 業務とは直接関係のない私的な行為であっても、宅建士の信用を失墜させるため、問題となる。
知識及び能力の維持向上(宅建業法第15条の3)
宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない。
宅建士は、不動産取引に関する法律や実務について最新の知識を身につけ、必要な能力を磨く努力をしなければなりません。不動産業界は法改正や市場の変化が頻繁にあるため、過去の知識だけで業務を行うと消費者に不利益をもたらす可能性があります。
そのため、定期的な研修への参加、法改正の情報収集、実務経験の積み重ねなどが求められます。
具体例
◎ ケース1:
不動産取引に関する法律が改正され、新たな義務が課された場合。
➡ 宅建士は改正内容を把握し、適切な業務対応ができるように学習する必要がある。
◎ ケース2:
ITを活用した不動産取引(電子契約、オンライン重要事項説明など)が普及。
➡ 宅建士は新しい技術に対応できるよう、適切な知識を身につけることが重要。
◎ ケース3:
宅建士が長年業務を行っているが、最近の市場動向や法改正を把握していない。
➡ 最新の情報を学び続けなければ、正しいアドバイスができず、顧客の信頼を損なう可能性がある。
まとめ
宅建業法第15条では、宅建士が守るべき基本的なルールとして、公正誠実義務、信用失墜行為の禁止、知識及び能力の維持向上を定めています。これらの義務を遵守し、適切な業務を行うことで、消費者の利益を守り、円滑な不動産取引を実現することが求められます。
宅建士として活躍するためには、常に公正な態度を持ち、誠実に業務を遂行し、最新の知識を身につける努力が必要です。
