営業保証金とは?
宅建業者(不動産業者)が事業を行う際、取引の相手方の利益を保護するために供託するお金のことを「営業保証金」といいます。万が一、業者が取引相手に損害を与えた場合、この営業保証金から弁済を受けることができます。
例えば、不動産会社が顧客から預かった手付金を持ち逃げした場合、その顧客は営業保証金から損害を回収できる可能性があります。
営業保証金の供託義務(第25条第1項)
宅地建物取引業者(宅建業者)は、営業保証金を主たる事務所(本店)の最寄りの供託所に供託しなければなりません。
具体例
- 東京に本社がある不動産会社Aが宅建業を始める場合 → 東京の供託所に営業保証金を供託。
- 大阪にも支店を開設する場合 → 支店ごとに追加の営業保証金を供託。
このように、宅建業者は営業保証金を適切に供託することで、消費者の利益を保護する体制を整えます。
営業保証金の金額(第25条第2項)
営業保証金の金額は、事務所の数や取引の実情を考慮し、政令(宅建業法施行令)で定められています。具体的には、
- 主たる事務所(本店):1,000万円
- その他の事務所(支店など):1店舗につき500万円
具体例
- 本店のみの不動産会社 → 1,000万円
- 本店 + 支店1つの不動産会社 → 1,500万円(1,000万円 + 500万円)
- 本店 + 支店3つの不動産会社 → 2,500万円(1,000万円 + 500万円×3)
営業保証金の代替手段(第25条第3項)
営業保証金は、現金だけでなく国債証券や地方債証券などの有価証券でも供託することができます。
ただし、有価証券の価値は額面どおりには認められず、次のように評価されます(施行規則第15条)。
- 国債証券:額面どおり(100%)
- 地方債証券や政府保証債:額面の90%
- その他の債券など(国土交通大臣が指定したもの):額面の80%
その他の債券などには、以下のようなものが含まれます。
- 金融機関が発行する社債(例:大手銀行の社債)
- 公的機関が発行する社債(例:公庫債券など)
- 特定の企業が発行する社債(国土交通大臣の指定を受けたもの)
また、供託する有価証券は安定性が求められ、時効が近いものや解散中の法人が発行したものは認められません。
具体例:1,000万円の営業保証金を供託する場合
- 国債証券のみ → 1,000万円分の国債証券
- 地方債証券のみ → 約1,111万円分(90%評価なので1,000万円 ÷ 0.9)
- 債券のみ → 1,250万円分(80%評価なので1,000万円 ÷ 0.8)
※上記の具体的な計算ができなくても問題ありません!
営業保証金供託後の届出(第25条第4項・第5項)
宅建業者は、①営業保証金を供託したら、②供託書の写しを国土交通大臣または都道府県知事に届け出る必要があります。この届出をしないと営業を開始できません。
- 不動産会社Bが営業保証金1,000万円を供託した → 供託書の写しを東京都に届け出。
- 届出をせずに営業を開始した → 違反。
届出の遅れと免許取消(第25条第6項・第7項)
宅建業者が免許を取得した後、3か月以内に営業保証金の供託の届出をしない場合、国土交通大臣や知事は催告を行います。
さらに、催告後1か月以内に届出がない場合、宅建業者の免許を取り消すことができます(任意)。
- 4月1日:免許取得
- 7月1日:3カ月経過 → 供託の届出なし。
- 7月2日:国土交通大臣が催告。
- 8月2日:1カ月経過 → まだ届出なし → 免許取消の可能性。
営業保証金の差し替え(施行規則第15条の4の2)
供託した有価証券の償還期限が来たり、無効になったりした場合、業者は速やかに新しい営業保証金を供託しなければなりません。これを「差し替え」といいます。
また、差し替えをした場合は、変更後の供託書の写しを国土交通大臣または都道府県知事に届け出なければなりません。
- 不動産会社Cが営業保証金として1,000万円分の債券(1250万円の額面の80%評価で1000万円)を供託。
- 債券の償還期限が到来 → 速やかに新しい国債証券1,000万円分を供託。
- 供託書の写しを東京都に届け出。
まとめ
宅建業法第25条は、宅建業者が事業を行う際に、取引相手の利益を保護するために営業保証金を供託する義務について定めています。
- 営業保証金の供託は必須(本店・支店ごとに金額が異なる)。
- 供託の届出をしないと営業できない。
- 免許取得後3か月以内に供託の届出をしないと催告・免許取消の可能性。
- 国債や地方債などの有価証券でも供託可能(評価額に注意)。
- 供託した有価証券が無効になると、差し替えが必要。
宅建試験でも頻出の内容なので、具体例を交えてしっかり理解しましょう!
