媒介契約とは
宅地建物取引業者(以下「宅建業者」)が、売主と買主の間に立って売買や交換を成立させるための契約を「媒介契約」といいます。宅建業者は、媒介契約を締結した際に、遅滞なく契約内容を記載した書面を作成し、依頼者(売主または買主)に交付する義務があります。
この媒介契約のルールを定めているのが、宅建業法第34条の2です。本条文では、媒介契約を締結する際に記載すべき重要事項を規定しています。以下に、そのポイントを分かりやすく解説していきます。
媒介契約書に記載すべき事項
媒介契約書は、下記内容を記載しなければなりません。とりあえず列挙しますが、その下で分かりやすく詳しく解説していきます。
- 当該宅地の所在、地番その他当該宅地を特定するために必要な表示又は当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示
- 当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額
- 当該宅地又は建物について、依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することの許否及びこれを許す場合の他の宅地建物取引業者を明示する義務の存否に関する事項
- 当該建物が既存の建物であるときは、依頼者に対する建物状況調査(建物の構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として国土交通省令で定めるもの)の状況の調査であつて、経年変化その他の建物に生じる事象に関する知識及び能力を有する者として国土交通省令で定める者が実施するものをいう。)を実施する者のあつせんに関する事項
- 媒介契約の有効期間及び解除に関する事項
- 当該宅地又は建物の第五項に規定する指定流通機構への登録に関する事項
- 報酬に関する事項
- その他国土交通省令・内閣府令で定める事項
上記内容を一つ一つ分かりやすく解説していきます。
(1) 物件の特定に必要な情報(第34条の2 第1号)
媒介契約では、売買や交換の対象となる宅地や建物を特定するために、以下の情報を記載する必要があります。
土地の場合:所在地、地番、面積など
建物の場合:所在地、種類(住宅、店舗など)、構造(木造、鉄筋コンクリート造など)
具体例
「東京都新宿区〇〇町1-2-3、地番456、面積200平方メートル」
「東京都港区△△1丁目1番1号、鉄筋コンクリート造のマンション、専有面積80平方メートル」
(2) 売買価格や評価額(第34条の2 第2号)
対象物件の売買価格や評価額を記載します。売主が提示する希望価格だけでなく、市場価格の参考となる査定額を明示する場合もあります。
宅地建物取引業者は、売買価格や評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない
具体例
「売主の希望売却価格:3,000万円」
「不動産会社の査定価格:2,800万円」
(3) 他の業者への重複依頼の可否(第34条の2 第3号)
依頼者が他の宅建業者にも媒介や代理を依頼できるかどうかを記載します。
種類と特徴
- 一般媒介契約:依頼者は複数の宅建業者に依頼可能
- 専任媒介契約:1社のみに依頼(ただし自己発見取引は可能)
- 専属専任媒介契約:1社のみに依頼し、自己発見取引も不可
「自己発見取引」とは、不動産の売却を不動産会社に依頼している売主が、自分で買主を見つけて契約を成立させることを指します。
具体例
例えば、売主が「専属専任媒介契約」を結んでいる場合、知人が「その物件を買いたい」と申し出ても、不動産会社を通さずに直接契約することはできません。一方、「専任媒介契約」や「一般媒介契約」の場合は、売主が自ら買主を見つけた場合でも直接契約することが可能です。
(4) 建物状況調査(インスペクション)の斡旋(第34条の2 第4号)
既存の建物(中古住宅など)を売買する場合、依頼者に対して「建物状況調査(インスペクション)」の斡旋を行うかどうかを記載します。
建物状況調査とは、建築士などの専門家が建物の構造耐力上の主要部分(基礎・柱・屋根など)や雨水の浸入を防ぐ部分(外壁・屋根など)の状態を調べるものです。
具体例
「本物件についてインスペクションを希望する場合、当社が建築士による調査を斡旋可能です。」
(5) 媒介契約の有効期間および解除(第34条の2 第5号)
媒介契約には有効期間が設定されます。
- 一般媒介契約:有効期間の制限なし(契約書で定める)
- 専任媒介契約・専属専任媒介契約:最長3か月(更新可能)
一般媒介契約については、宅建業法上、有効期間の制限がないため、契約書に記載すれば1年でも2年でも設定可能です。また、自動更新特約も有効です。
専任媒介契約・専属専任媒介契約の更新については、3か月経過後に契約者(売主)が希望すれば、媒介契約を更新することができます。ただし、自動更新は禁止されているため、更新の際には再契約が必要です。
契約解除の条件についても記載します。
具体例
依頼者は、特に理由がなくても契約期間内であっても媒介契約を解除することができる。ただし、違約金〇〇円の負担を負うものとする。
(6) 指定流通機構への登録をするか否か(第34条の2 第6号)
専任媒介契約・専属専任媒介契約の場合、宅建業者は「指定流通機構(レインズ)」へ物件情報を登録する義務があり、登録するか否かを記載します。
- 専任媒介契約:契約締結後7営業日以内に登録
- 専属専任媒介契約:契約締結後5日営業日以内に登録
一般媒介契約の場合は、指定流通機構に登録してもしなくてもよいです。ただし、登録をしてもしなくても「登録しない」と記載しなければなりません。
(7) 報酬に関する事項(第34条の2 第7号)
仲介手数料(報酬)の額や支払時期を記載します。
例:売買価格が2,000万円の場合
法定上限額:売買価格×3%+6万円=66万円(消費税別)
支払い方法:契約締結時に半額、引渡し時に残額
(8) 国土交通省令・内閣府令で定める事項(第34条の2 第8号)
この条項には、
- 専任媒介契約で他の業者を利用した場合の措置
- 専属専任媒介契約で依頼者が自ら契約した場合の措置(自己発見取引が禁止にも関わらず違反した場合の措置)
- 重複依頼を許可する場合のルール
- 国交省の標準媒介契約約款に基づく契約か否か
を含める必要があります。
1. 専任媒介契約で他の業者を利用した場合の措置
具体例:
Aさんは不動産の売却を「X不動産」と専任媒介契約で締結しました。
しかし、Aさんは「Y不動産」にも仲介を依頼し、Y不動産経由で買主Bさんと契約を締結しました。
措置:
X不動産は報酬請求できるか?
→ できない(専任媒介契約では依頼者の自己発見取引は許可されているため)
X不動産は契約違反を理由に損害賠償請求できるか?
→ 可能性あり(契約条項により、損害が発生した場合には賠償請求できるケースも)
そのため、「X不動産以外の宅建業者に依頼して売買契約を締結した場合、違約金〇〇万円をX不動産に支払うものとする」などと記載します。
2. 専属専任媒介契約で依頼者が自ら契約した場合の措置
具体例:
Bさんは不動産売却を「Z不動産」と専属専任媒介契約で締結しました。
しかし、Bさんは自分で買主Cさんを見つけ、Z不動産を通さず直接売買契約を締結しました。
措置:
Z不動産は報酬請求できるか?
→ できる(専属専任媒介契約では「自己発見取引禁止」のため、媒介手数料を請求可能)
契約違反の損害賠償請求は可能か?
→ 可能性あり(標準契約書では損害賠償規定が設けられているケースが多い)
そのため、「Z不動産を通さず直接売買契約を締結した場合、違約金〇〇万円をZ不動産に支払うものとする」などと記載します。
3. 重複依頼を許可する場合のルール
具体例:
Cさんは不動産売却を「D不動産」「E不動産」「F不動産」の3社に依頼したいと考えています。
そのため、各社と一般媒介契約を締結しました。
ルール:
■明示型一般媒介契約の場合
→ 他の媒介業者に依頼していることを通知する義務あり
例えば、D不動産との媒介契約において「Cは、複数の宅建業者に依頼することができる。ただし、依頼した際は、D不動産に通知するものとする」と記載します。
■非明示型一般媒介契約の場合
→ 通知義務なし(複数社に依頼してもOK)
例えば、D不動産との媒介契約において「Cは、複数の宅建業者に依頼することができる。依頼した際は、D不動産に通知する義務はないものとする」と記載します。
どちらの場合も自己発見取引は可能
4. 国交省の標準媒介契約約款に基づく契約か否か
具体例:
D不動産と媒介契約における媒介契約書に、「この媒介契約は、国土交通省が定めた標準媒介契約約款に基づく契約です。」との記載があれば、その媒介契約書は「標準媒介契約約款」をもとに記載されたものと判断できます。
逆に「この媒介契約は、国土交通省が定めた標準媒介契約約款に基づく契約ではありません。」と記載すれば、約款に基づいていないことが分かります。
「標準媒介契約約款」とは、宅地建物取引業者(不動産会社)が媒介契約を締結する際に、依頼者(売主・買主)との間で公平かつ適正な契約を結べるように、国土交通省が定めた標準的な契約書のひな型のことです。
【なぜ標準媒介契約約款があるのか?】
不動産業界では、媒介契約に関するトラブルが発生しやすいことから、売主や買主が不利益を被らないように、公正で分かりやすいルールを作るために定められました。これにより、不動産会社ごとにバラバラな契約内容になることを防ぎ、消費者保護を強化する目的があります。
媒介契約締結後の流れ
媒介契約締結後の流れを、分かりやすく整理すると下記の通りです。
- 指定流通機構への登録(専任媒介契約)
- 登録証明書の交付
- 申込みがあった際の報告
- 成約時の通知
指定流通機構への登録(専任媒介契約)
専任媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、契約の相手方を探すために、一定期間内に物件情報を「指定流通機構(レインズ)」に登録します。
指定流通機構(レインズ:REINS)と は、宅地建物取引業者が売却依頼を受けた物件情報を登録し、不動産業者間で共有するためのシステムです。
レインズの役割と目的については、下記の通りです。
- 不動産情報の円滑な流通
- 不動産業者間で物件情報を迅速に共有し、取引をスムーズに進める。
- 売主(依頼者)にとっては、より多くの業者に情報が届きやすくなる。
買主(購入希望者)にとっては、多くの選択肢の中から希望する物件を見つけやすくなります。
登録証明書の交付
宅建業者は、指定流通機構に登録した後、その登録を証明する書面(登録証明書)を作成し、依頼者(売主)に遅滞なく交付します。
申込みがあった際の報告義務
物件に対して購入や交換の申し込みがあった場合、宅地建物取引業者は依頼者に遅滞なく報告します。
成約時の通知義務
登録した物件が売買または交換契約によって成約した場合、宅地建物取引業者は速やかに指定流通機構へ通知する。
専任媒介契約の報告義務
媒介業者は、契約の依頼者(売主)に対し、業務の処理状況を定期的に報告する義務があります。
- 通常の専任媒介契約:2週間に1回以上
- 専属専任媒介契約 :1週間に1回以上
依頼者に不利な特約の禁止
宅建業法では、専任媒介契約や専属専任媒介契約に関して、依頼者(売主)に不利な特約を禁止しています。
具体的には、以下のような特約は無効となります。
- 報告義務を免除する特約(例:「媒介業者は報告しなくてもよい」)
- 契約期間を3ヶ月以上に延ばす特約(例:「契約は1年間有効」)
- 依頼者が自由に契約を解除できない特約(例:「途中で解約できない」)
電磁的方法による書面提供(令第2条の6第1項・第2項)
宅建業法第34条の2は、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)が依頼者と締結する媒介契約に関して、その契約内容を書面で交付する義務について定めています。また、近年のデジタル化の流れを受け、書面の電子交付(電磁的方法)に関する規定も整備されています。
電磁的方法とは?
電磁的方法とは、紙の書面ではなく、電子的な手段(例:電子メール、WEBサイトからのダウンロード、CD-ROM等)で契約内容を提供する方法を指します。
電磁的方法で提供するためのルール
宅建業者が電磁的方法で書面を提供する場合、以下の手順を踏む必要があります。
- 事前の承諾を得る
・依頼者が電磁的方法での提供を確実に受け取れる環境にあることを確認する。
・どのような電子手段を使うか(例:メールかWEBダウンロードか)を説明する。
・承諾を得た証拠が残るようにする(例:書面での承諾、電子メールでの承諾)。 - 依頼者が希望しない場合は紙で提供
・承諾を得た後でも、依頼者が「やっぱり紙でほしい」と申し出た場合は、電磁的方法ではなく紙の書面を提供しなければならない。
・ただし、再度電磁的方法を希望する場合は、その申し出に応じてよい。
ある不動産会社が依頼者と媒介契約を結ぶ際、「契約内容はPDFでメール送付します」と伝えたとします。依頼者が「メールなら確認できる」と承諾した場合、電子交付が可能になります。しかし、後日依頼者が「やっぱり紙の契約書がほしい」と言った場合、宅建業者は紙の契約書を提供しなければなりません。
電磁的方法による提供の基準(施行規則第15条の14)
電磁的方法で書面を提供する場合、依頼者がしっかりと内容を確認できるように、以下の条件を満たす必要があります。
- 書面に出力できる形式で提供する
依頼者が将来、契約内容を紙に印刷できるような形式(PDFなど)で提供する。 - 改ざん防止措置を講じる
電子署名などを活用し、後から内容を変更されないようにする。 - ダウンロードの通知を行う
・WEBダウンロード方式の場合、
ダウンロード可能になったら依頼者に通知する。
または、事前に「この日からダウンロードできます」と知らせる。
・依頼者がすでにダウンロードしたことが確認できれば、通知は不要。
不動産会社が契約書をオンラインで提供する際、電子署名付きのPDFファイルを用意し、依頼者に「このリンクからダウンロードできます」とメールで通知します。また、PDFには電子署名が施されており、後から改ざんされないようになっています。
電磁的方法による提供時の注意点
電磁的方法で書面を提供する際、以下の点に注意が必要です。
- 依頼者のIT環境を確認する
依頼者が使用するソフトウェアやデバイスが、宅建業者の提供する電子書面に対応できるか確認する。 - 提供後に確実に届いたか確認する
メールが届いているか、ダウンロードできたかを確認する。 - 文字化け・改変防止
依頼者が書面の内容を正しく確認できるように、文字化けや改変がないかチェックする。 - 保存方法を説明する
依頼者に「この契約書は保存しておいてください」と伝え、保存方法(例:PC内、クラウド保存など)も説明する。
ある宅建業者が契約書を電子メールで送付したが、依頼者が「ファイルが開けない」と連絡してきた。この場合、業者はPDF閲覧ソフトを案内するか、紙の契約書を送る対応が必要になります。
施行令第2条の6による詳細規定
宅建業者が電磁的方法による書面提供を行う際の手続きとして、以下の点が施行令で定められています。
- 提供する電子書面の種類・内容を説明する
どの方法(メール・ダウンロード・CD-ROM等)を使うかを事前に説明。 - 依頼者が拒否したら電磁的方法の提供を中止する
依頼者が「電磁的方法は使わない」と申し出た場合は、それ以降紙で提供する。 - 依頼者が再び承諾すれば電磁的方法が可能
いったん拒否した後でも、再度依頼者が承諾すれば、電磁的方法の利用が可能。
宅地建物取引業者の役割と媒介業務以外の関連業務
宅地建物取引業者(以下「宅建業者」)は、不動産の売買・賃貸を仲介する「媒介業務」を主な業務としています。しかし、それだけではなく、不動産取引に関連するさまざまな専門家(金融機関、司法書士、土壌汚染調査機関など)と協力し、消費者に適切な助言を行うことも求められます。さらに、宅建業者自らが媒介業務以外の関連業務にも積極的に取り組むことが期待されています。
近年の社会的課題と宅建業者の新たな役割
現在、特に問題視されているのが「空き家・空き室」の増加です。この問題に対応するため、宅建業者は以下のような役割を担うことが求められています。
- 空き家・空き室の利活用のための助言・総合調整業務
・所有者が空き家をどのように活用するかについての方針を提案
・空き家の相続や権利関係について助言
・必要に応じて専門家(司法書士や税理士など)と連携 - 空き家・空き室の管理業務
・遠隔地に住んでいる所有者に代わって定期的に管理
・空き家の適切な維持・修繕のアドバイス
・防犯対策としての巡回管理や清掃業務
具体例で学ぶ媒介業務以外の関連業務
事例1:相続した実家の空き家の売却相談
Aさんは親から相続した実家を持っているが、自身は遠方に住んでおり管理ができない。宅建業者に相談したところ、以下のような助言を受けた。
- 空き家を売却する場合の手続きや市場価格の説明
- 相続登記の必要性と司法書士の紹介
- そのまま賃貸として活用する選択肢の提示
このように、宅建業者は売却の仲介だけでなく、所有者の状況に応じた最適な選択肢を提示する役割も担っています。
事例2:転勤で空き家になった家の管理
Bさんは転勤のため、自宅が空き家になってしまう。将来的には戻る予定のため、売却ではなく適切な管理をしたいと考えた。宅建業者に相談したところ、以下のようなサービスを提案された。
- 定期的な巡回・清掃業務
- 水道・電気の点検
- 必要に応じて賃貸活用の提案
このように、宅建業者は売買だけでなく、所有者のニーズに応じた管理サービスも提供することが可能です。
契約の明確化と媒介契約との違い
宅建業者が媒介業務以外の関連業務を行う場合、重要なのが「媒介業務との区分を明確にすること」です。具体的には以下の点に注意する必要があります。
- 契約内容の説明:依頼者に対し、業務内容や報酬について十分な説明を行う。
- 媒介契約とは別の契約書の作成:媒介契約とは別に、関連業務の契約書を作成する。
- 成果物の書面交付:契約の成果物がある場合には、それを明確に書面で交付する。
報酬の制限との関係
宅建業者は媒介業務に関して受け取る報酬額に法律で上限が定められています(宅建業法第46条第2項)。しかし、媒介業務以外の関連業務については、媒介契約とは別に契約を締結すれば、報酬の制限に違反しないとされています。
