はじめに:都市計画の重要性と概要
都市計画とは、将来にわたる市街地の整備や開発、環境の保全などを目的として、どのように土地を利用するか、その基本的な方向性や具体的な施策を決定する制度です。都市計画が決定されると、道路、公園、公共施設などの整備が進むとともに、土地利用や建物の建設に対する制限が課せられ、土地所有者や住民の権利にも影響を及ぼします。したがって、都市計画の決定手続は、行政の各機関だけでなく、地域住民や土地権利者、さらにはNPO法人など多様な利害関係者との調整が必要となる、非常に重要な制度なのです。
都市計画の内容は誰が定めるのか
都市計画の決定権者は、その計画の対象地域や規模によって異なります。以下、それぞれのケースについて具体的に解説します。
(a) 都市計画区域内の都市計画の決定
市町村と都道府県の役割
まず、基本的な原則として「都市計画は、市町村が決定します (15条1項)」。これは、地域ごとの事情や住民の意見を最も反映しやすい市町村が、中心的な役割を担うという考え方に基づいています。
ただし、広域的な視点が必要な場合や、大都市に関する計画の場合には、より広い視野で計画を立案する必要があるため、都道府県が決定することになります。また、市街化区域や市街化調整区域といった区域区分については、都道府県が決定することとされています。
例えば、ある中小規模の町で、新たな住宅地の整備や商業施設の配置を計画する場合、その計画は基本的に市町村が決定します。一方、複数の市町村にまたがる大都市圏の再開発計画や、県全体での産業団地整備の場合は、都道府県が全体の方向性を定め、計画を進めることとなります。また、もし2つ以上の都府県にまたがる区域で、都道府県が決定すべき事項がある場合は、国土交通大臣がその決定を行います。ただし、市町村が決定すべき事項については引き続き各市町村が判断するという仕組みになっています(22条1項)。
(b) 都道府県が定める都市計画と市町村が定める都市計画との調整
都市計画は、各行政主体が個別に決定できるものではありますが、国全体や広域的な計画との整合性が求められます。具体的には、以下のような規定があります。
市町村が定める都市計画は、議会の議決を経て定められた当該市町村の建設に関する基本構想に即し、かつ、都道府県が定めた都市計画に適合したものでなければなりません (15条3項)。
さらに、市町村は都市計画区域の整備、開発及び保全の方針に即し、都市計画に関する基本的な方針 (マスタープラン) を定める必要があります (18条の2)。
つまり、市町村が独自に作成した計画であっても、都道府県の大きな枠組みや方針と食い違う内容であれば、調整が求められ、都道府県の計画が優先されることになります。
具体的には、市町村が定めた都市計画が、都道府県が定めた都市計画と抵触するときは、その限りにおいて、都道府県が定めた都市計画が優先します (15条4項)。
たとえば、ある市町村が独自に決めた住宅地の用途地域が、都道府県が全体の都市再生計画の中で設定した大型商業施設の開発計画と重複・矛盾する場合、都道府県の計画が優先されます。結果として、市町村は自らの計画を見直し、都道府県の計画に沿った調整を行う必要があります。
(c) 準都市計画区域内の都市計画の決定
準都市計画区域とは、基本的な市街地とは異なるが、今後の都市化が見込まれる区域のことです。こうした区域内の都市計画は、都道府県又は市町村がそれぞれの判断で定めることになっています。
つまり、準都市計画区域においては、どちらか一方に統一された決定権が与えられているわけではなく、地域の事情や規模に応じて、都道府県または市町村のいずれかが決定権を有するということです。
都市計画の決定権者と提案制度
都市計画の決定権者の整理
都市計画の決定権については、以下の点に注意します。
(1) 都市計画区域内の都市計画は、原則として都道府県又は市町村が定める。
※ 複数の都府県にまたがる都市計画区域の場合、国土交通大臣及び市町村が決定します。
(2) 市町村が定めた都市計画が都道府県の計画と抵触する場合は、都道府県が定めた都市計画が優先する。
(3) 準都市計画区域内の都市計画は、都道府県又は市町村が定める。
都市計画の提案制度
都市計画は行政が一方的に決めるだけでなく、土地所有者や地域住民、または街づくりの推進を目的とする特定非営利活動法人(NPO法人)などからの提案を受け付ける仕組みもあります。具体的には、土地所有者等、街づくりの推進を目的とする特定非営利活動法人(NPO法人) などは、都道府県又は市町村に対し都市計画の提案をすることができます (21条の2第2項)。この提案は、当該提案に係る都市計画の素案の対象となる土地の区域内の土地所有者の3分の2以上の同意を得て行います(21条の2第3項)。
ある地域で、長年住んでいる住民が中心となって、地域の交通改善や公園の整備を求める意見があったとします。この場合、地域のNPO法人が住民の意見をまとめ、提案書を作成して市町村に提出します。提案が成立するためには、その区域内にある土地所有者の3分の2以上の同意が必要となるため、住民間の意見調整や説明会が開催されることが多いです。こうした仕組みにより、住民や土地所有者の意見が都市計画に反映されるようになっています。
都市計画の決定手続きの流れ
都市計画が決定されるまでの手続きは、非常に段階的かつ丁寧なプロセスを経て行われます。ここでは、その手続きの概要と具体的な流れを、以下の4つのステップに分けて解説します。
1. 都市計画の原案作成
まず、決定しようとする都市計画の原案が作成されます。
この段階では、地域の現状や将来の発展可能性、住民の要望などを考慮し、全体の構想がまとめられます。
16条1項には、「必要に応じて公聴会など住民の意見を反映させるための措置を講ずることができます」と定められており、住民の声を取り入れる努力がなされます。
たとえば、ある市町村で新たな住宅地を開発する際、行政はまず現状の土地利用や周辺環境、将来的な交通の流れなどを調査し、その結果をもとに「この地域にはどのような施設が必要か」「どこに道路を配置すべきか」などを検討して、原案を作成します。この過程で、地域住民向けの説明会や公聴会が開催され、意見を収集する場合もあります。
2. 原案の公表と意見募集
原案が作成された後、次のステップとして原案の公表と住民などの意見募集が行われます。
具体的には、都市計画を決定する旨が公告され、原案とその理由を記載した書面が2週間、公衆の縦覧に供されます (17条1項)。
この縦覧期間中、住民や関係者は意見書を提出することができ、都市計画によって不利益を受ける可能性のある人々の意見を反映させるための重要な手続きとなっています(17条2項)。
ある市町村が新たに開発する区域について、行政は町役場の公告板やウェブサイトで原案の全文とその背景を公開します。縦覧期間中、例えば、近隣に住む住民が「このままだと学校や病院へのアクセスが悪くなるのではないか」といった意見書を提出することにより、行政は計画の修正や補足検討を行うきっかけとなります。
3. 審議会の議等を経る
原案の公表・意見募集が終了した後、各種関係機関との調整が行われる段階です。ここでは、決定権を持つ主体(都道府県または市町村)によって手続きが異なります。
【都道府県が決定する場合】
– 関係市町村の意見を聴く
都道府県は、対象となる地域内の各市町村の意見を必ず聴取します。
都道府県都市計画審議会の議を経る
審議会に付議し、各種利害関係者や行政関係者との調整を図ります(18条1項)。
なお、住民・利害関係人から提出された意見書の要旨は、この審議会に提出されなければなりません(18条2項)。
– 国土交通大臣との協議
都市計画が国の利害に重大な関係がある場合、国土交通大臣に協議し、その同意を得る必要があります(18条3項)。
複数の市町村にまたがる大規模な都市再開発計画では、都道府県が中心となり、関係する全市町村の意見をまとめた上で、都道府県都市計画審議会で詳細な議論が行われます。もし、計画の内容が国全体の交通網や経済活動に大きな影響を与える場合には、国土交通大臣の協議を経ることにより、計画の適正性が確認されます。
【市町村が決定する場合】
– 市町村都市計画審議会の議を経る
市町村は、まず自ら設置している(または、置いていない場合は都道府県都市計画審議会を代用して)審議会の議を経なければなりません(19条1項)。
– 都道府県知事への協議
都市計画区域または準都市計画区域について決定する際、あらかじめ都道府県知事に協議しなければなりません。ただし、都道府県知事の同意は必要とされません(19条3項)。
ある市町村が新たな公園整備計画や住宅地の再開発計画を進める場合、まず市内の専門家や住民代表を交えた市町村都市計画審議会で計画案が検討されます。その後、計画の内容が都道府県全体の都市計画とどのように整合しているかを確認するために、事前に都道府県知事と協議が行われます。たとえば、都市計画の変更によって周辺の交通網に影響が出る場合、都道府県側との調整が重要となります。
4. 都市計画の決定と告示
最後のステップは、各段階を経た上で正式に都市計画を決定し、告示することです。
決定された都市計画は、告示・縦覧に供され、告示のあった日からその効力が生じます (20条3項)。
また、都市計画の内容は、総括図、計画図及び計画書により表示され、土地権利者は当該計画が定められている土地の所在する都道府県または市町村の事務所において、これらの図書またはその写しを縦覧することができます(14条1項,20条2項)。
たとえば、新たな都市計画が告示された後、計画に基づいて新しい道路や公共施設の整備が進められ、住民や土地所有者は実際に計画図を確認することで、自らの権利や義務、または将来の土地利用の見通しを理解できるようになります。また、告示後に地域で実際の工事が始まったり、住民説明会が開かれたりすることにより、計画の具体的な内容が実現されていく流れとなります。
まとめ
ここまでの内容を、試験に向けた覚え方・理解のための合格ステップとして、改めて整理してみましょう。
1.都市計画の原案作成
行政が地域の実情や将来の発展計画を検討し、原案をまとめる。
必要に応じて公聴会など住民の意見を取り入れる(16条1項)。
【具体例】新たな住宅地開発の場合、現状調査と住民説明会を実施。
2.原案の公表と意見募集
都市計画決定の公告を行い、原案とその理由を記載した書面を2週間縦覧に供する(17条1項)。
縦覧期間中、住民や利害関係者が意見書を提出できる(17条2項)。
【具体例】公告板やウェブサイトで原案を公開し、住民が意見を提出する。
3.審議会の議等を経る
【都道府県が決定する場合】
関係市町村の意見を聴取。
都道府県都市計画審議会の議を経る(18条1項)。
必要に応じて、国土交通大臣に協議し同意を得る(18条3項)。
<具体例> 大規模再開発計画の場合、各市町村の意見をまとめ審議会で議論。
【市町村が決定する場合】
市町村都市計画審議会(または代替審議会)の議を経る(19条1項)。
都道府県知事に協議する(19条3項)。
<具体例>市内の公園整備計画で、地域住民と専門家の意見を審議会で反映し、都道府県知事と協議。
4.都市計画の決定と告示
決定された都市計画は、告示により効力を発生(20条3項)。
総括図、計画図、計画書で計画内容が表示され、土地権利者は縦覧が可能(14条1項,20条2項)。
【具体例】告示後、計画図を確認しながら新道路の整備が進行する。
また、都市計画の決定手続には、土地所有者やNPO法人などからの提案制度もあります。
提案を行うためには、当該区域内の土地所有者の3分の2以上の同意が必要とされ、地域の実情や住民の意向が反映される仕組みとなっています(21条の2第2項、21条の2第3項)。
【具体例】住民が中心となって地域の交通改善を求める提案が、NPO法人を通じて行政に提出されるケースなどが挙げられます。
以上のように、都市計画の決定手続は、地域の将来を左右する重要な制度であり、次の点に留意することが必要です。
決定権の所在
市町村と都道府県、さらには国土交通大臣の役割が地域や計画内容に応じて明確に分かれている。
行政間および住民・利害関係者との調整
公聴会や縦覧、審議会を通じて、多様な意見を取り入れ、調整を図るプロセスが必須である。
告示による効力発生と情報公開
決定後は告示により効力が発生し、誰もが計画内容を確認できるようになっているため、透明性が確保されている。
提案制度の活用
住民や土地所有者が、地域の実情に即した意見を提案することができ、これが計画に反映される仕組みも整備されている。
このように、都市計画の決定手続は、法律に基づいた厳格なルールと、地域住民や関係者の意見を反映させるための手続きが組み合わさって進められています。各手続きの段階で、関係する条文(15条、16条、17条、18条、19条、20条、21条の2など)が定められており、これらの条文の趣旨を正しく理解することが、宅建試験においても非常に重要です。
実際の試験では、各条文の内容を正確に暗記するだけでなく、どの段階でどのような調整や協議が行われるのか、具体例を通じて理解しておくことが合格への近道となります。たとえば、都市計画区域内の決定権者がどのように変わるのかや、都道府県と市町村の間で計画内容が衝突した場合の対応など、実際の行政の現場をイメージしながら学習することが求められます。
最後に、都市計画は単なる図面や計画書として存在するだけでなく、実際の街づくりや住民生活に直結する制度であるという点を常に意識し、行政と住民との関係、そしてそれぞれの調整手続きの意義を理解することが、試験対策においても大変有用です。
