はじめに
今回は都市計画について、解説していきます。都市計画とは、広い地域全体の将来像を描き、計画的な街づくりを行うための仕組みです。宅建試験においては、この都市計画の基本的な考え方や、具体的な区域区分、さらにその区域ごとに定められる土地利用のルール(用途地域)について理解することが必須となります。本テキストでは、初めて学ぶ方でも理解しやすいように、都市計画のマスタープラン、区域区分、用途地域の3つの大きな視点から、具体例を交えて解説していきます。
都市計画のマスタープラン
都市計画の第一歩は、まず「都市計画区域」が指定されることです。都市計画区域が定められると、その区域内でどのような街づくりを行うのか、具体的なプラン(=都市計画)を策定します。しかし、ただ単に計画を立てるのではなく、計画を進めるための基本的な方針が必要です。
都市計画区域の整備、開発及び保全の方針
都市計画区域内のまちづくりを進める際には、どの地域をどのように整備・開発し、どの部分を保全するかという基本方針が必要です。法律では「6条の2第1項」に基づき、この方針が定められることになっています。たとえば、ある市では中心市街地の再開発と周辺の自然環境の保全を両立させるため、中心部では高層ビルや商業施設を誘致し、郊外では緑豊かな住環境を維持するという基本方針が示される場合があります。
・ある地方都市では、中心部の再開発を進める一方、郊外に位置する歴史的な村落はそのままの風情を残すために、開発を制限する方針を採っています。これにより、都市全体のバランスが取られ、生活環境や景観の保全が図られています。
区域区分(区域の線引き)の考え方
都市計画区域内すべてで一斉に開発を行うのは、資金面や社会的な調整の面からも現実的ではありません。そこで、あらかじめ区域を分け、どこを積極的に市街地として発展させ、どこは開発を抑制するかを明確にする必要があります。これを「区域区分」と呼び、法律では「7条」に基づいて定められます。
(a) 市街化区域と市街化調整区域
区域区分が定められた場合、都市計画区域は大きく2つに分かれます。
市街化区域
・すでに市街地が形成されている、またはおおむね10年以内に計画的に市街化を進めるべき区域です。
・この区域では、宅地の造成や建築物の建築が積極的に行われるため、用途地域の設定も必ず行われます。
市街化調整区域
・一方、市街化調整区域は、市街地の無秩序な拡大を防ぎ、自然環境を保全するために、当面は市街化を行わない区域です。
・この区域内では、建築物の建築が原則として制限されており、土地の利用が厳しく調整されます。
Aさんは、郊外の田園地帯に所在する自分の土地に家を建てようとしました。しかし、その土地は市街化調整区域に指定されていたため、自由に建築物を建てることができませんでした。このように、市街化調整区域は「今は開発せず、自然や景観を残す」ための区域であることを理解することが重要です。
(b) 区域区分が定められていない都市計画区域
すべての都市計画区域で必ずしも区域区分(線引き)が行われるわけではありません。特に、人口が少ない小規模な都市では、区域区分を定めずに全体を一体として計画する場合があります。
・ただし、三大都市圏や指定都市の一定の区域については、法律で区域区分の定めが義務付けられています。
・たとえば、指定都市のうち、人口が50万未満の区域については、区域区分を定めなくてもよいとされています(施行令3条)。
(c) 市街化区域と市街化調整区域の詳細な区分
区域区分が定められると、都市計画区域はさらに以下の5つのカテゴリーに分類されます。
日本全国の区域区分
② 市街化調整区域
③ 区域区分が「定められていない都市計画区域」
④ 準都市計画区域
⑤ 都市計画区域および準都市計画区域外
このうち、市街化区域は、積極的なまちづくりが必要な地域であり、必ず用途地域が設定されるのに対し、市街化調整区域は開発を抑制するため、原則として用途地域は設定されません(13条1項7号)。
・大都市の中心部は既に発展しているため、市街化区域に指定され、再開発や新たな建築計画が盛んに行われています。
・一方、郊外の農村地帯や自然豊かな地域は、市街化調整区域として、無秩序な建築や開発が行われないように保護されています。
用途地域による土地利用の細分化
都市計画区域内で、区域区分によって大まかな方向性が定まった後、さらに具体的にどの土地をどのように利用するかを定めるために、より詳細なプランが必要となります。これが「地域地区」であり、その中核をなすのが「用途地域」です。
地域地区と用途地域
・地域地区は、土地利用の目的別に区画を細かく設定するもので、用途地域と補助的地域地区に大別されます。
・ここでは、主に「用途地域」について解説します。用途地域は、住居、商業、工業の三系統に大別され、さらに全部で13種類に分類されます。(8条1項、8条1項1号、9条1項~13条各項に基づく)
(a) 用途地域の種類とその具体的イメージ
〔住居系〕
・特徴:一戸建て住宅が立ち並ぶ、静かで落ち着いた住宅街。
・具体例:閑静な郊外住宅地。例えば、家族がゆったりと暮らす住宅街がこれにあたります。②第二種低層住居専用地域
・特徴:第一種と同様に低層住宅が主体ですが、周辺には小規模な店舗(喫茶店やパン屋など)が存在する場合もあります。
・具体例:住宅街に併設された小さな商店街。日常生活の利便性を高めるため、散歩の途中に立ち寄れるカフェがある地域など。③田園住居地域
・特徴:低層住宅と農地が調和して存在する地域。農産物直売所や地元産の食材を使ったレストラン、農作物の集荷・貯蔵施設などもみられます。
・具体例:田園風景の中に、一軒家と小規模な農産物直売所が点在する地域。週末には地元の新鮮な野菜を買い求めに訪れる住民が多い。
④第一種中高層住居専用地域
・特徴:中~高層のマンションや小規模な店舗が中心の住宅地。
・具体例:都市近郊の再開発地区で、複数階建てのマンションが立ち並び、通り沿いに小さなコンビニやクリニックが併設されるエリア。
⑤第二種中高層住居専用地域
・特徴:第一種中高層住居専用地域よりも、規模が大きい中高層マンションや、やや大きめの店舗、事務所などが混在する地域。
・具体例:都市の中心部近くに位置し、オフィスや大型マンションが混在して活気のあるエリア。
⑥第一種住居地域
・特徴:一戸建て住宅と中高層マンション、または大きめの店舗やホテルなどが混在する地域。
・具体例:歴史ある市街地の中で、伝統的な一戸建てと近代的な高層住宅が共存しているエリア。
⑦第二種住居地域
・特徴:第一種住居地域に比べ、比較的大規模な店舗や事務所が多く混在する地域。
・具体例:住みながらショッピングやオフィス利用もできる、利便性の高い地域。
⑧準住居地域
・特徴:大きな道路沿いに位置し、大型スーパーマーケットや自動車ショールーム、倉庫などが存在しながら、住宅も混在する地域。
・具体例:主要幹線道路沿いに、ショッピングモールと住宅が調和して配置され、車でのアクセスが良好なエリア。
〔商業系〕
・特徴:住宅地に隣接し、住民の日用品の供給を行うための小規模な商店街。
・具体例:住宅街の中に点在する小さなスーパーやドラッグストア、コンビニエンスストア。⑩商業地域
・特徴:繁華街を形成し、デパートやオフィスビルなどが集積するエリア。
・具体例:都市の中心部にある繁華街。多くの商業施設が立ち並び、夜遅くまで賑わうショッピングストリート。
〔工業系〕
・特徴:工場だけでなく、住宅や店舗も一定程度混在する地域。危険な製品を扱う工場などは除外されます。
・具体例:工業団地の一角に、下町風の商店街や住宅が点在するエリア。⑫工業地域
・特徴:工業専用地域に比べると、住宅や商業施設も存在する工業地帯。
・具体例:工場や倉庫が集積しつつ、周辺には従業員向けの飲食店や住宅が整備されている地域。⑬工業専用地域
・特徴:工場や石油コンビナートなど、工業活動のみを行うために指定された区域。
・具体例:大規模な工業地帯。周辺には住居がほとんどなく、重厚な工場施設のみが立ち並んでいるエリア。
覚え方のポイント
用途地域の中には「主として~」というキーワードがつくものがあります。たとえば、住居系のうち第二種低層住居専用地域や第二種中高層住居専用地域、また商業地域や工業地域、準工業地域といった、特定の用途を「主として」守るための地域には、この表現が用いられています。
用途地域の設定による建築制限
用途地域が定められると、その地域の性格に合わない建築物の建築が制限されます。具体的には、以下のような制限が課せられます。(8条3項2号)
①容積率の限度
・各用途地域ごとに建物の延べ床面積の合計の上限が決められ、これにより過密な建物の建築を防ぎます。
②建蔽率の限度
・特に住居系や工業系の地域では、敷地に対して建物が占める面積の割合が制限され、過度な密集を避けるための規定です。(商業地域は例外となる)
③高さの限度
・第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域では、建物の高さを10mまたは12mのどちらかに定める必要があります。
・例えば、第一種低層住居専用地域においては、隣接する住宅との調和を保つため、建物の高さが10mに制限されることが多いです。
④敷地面積の最低限度
・敷地の利用効率を確保しつつ、過密な建築を防止するために、最低限の敷地面積が200m²を超えない範囲で定められます。
このような制限により、各用途地域はその性格にふさわしい建物のみが建築され、街全体の秩序ある発展が促進されます。
居住環境向上用途誘導地区
近年の改正により、新たに「居住環境向上用途誘導地区」という概念が導入されました。
居住環境向上用途誘導地区とは
・これは、立地適正化計画に記載された居住誘導区域のうち、特に居住環境を向上させるために、特定の施設(例えば、環境に配慮した建築物や居住誘導施設)の建築を誘導する必要があると認められる区域です。
・ただし、用途地域内の工業専用地域を除く地域で定めることができるため、主に住居環境の改善や住民の生活の質の向上を目指す地域に適用されます。
・ある住宅地で、従来の低層住宅が多く、生活環境に改善の余地があると判断された場合、居住環境向上用途誘導地区に指定され、例えば、共用の緑地帯や高機能な公共施設の整備、エコな建物の建築などが奨励されることとなります。
補助的地域地区の全体像
用途地域制度では、まず市街地の大枠を「住居専用地域」「商業地域」「工業地域」などに分類します。しかし、これだけでは地域ごとの特性や住民のニーズに十分に応えられない場合があるため、用途地域内やその外で、さらに細かい制限や緩和措置を設けるための区域を定めます。これが「補助的地域地区」です。なお、以下の区分のうち、
・特別用途地区、
・特例容積率適用地区、
・高度地区、
・高度利用地区、
・高層住居誘導地区
は、必ず「用途地域内」において指定されます。
補助的地域地区の各種類と具体例
(a) 特別用途地区
法律上の位置付け
「特別用途地区とは、用途地域内の一定の地区における当該地区の特性にふさわしい土地利用の増進、環境の保護等の特別の目的の実現を図るため、当該用途地域の指定を補完して定める地区をいいます (9条14項)。」
たとえば、ある住宅地の一角に、地域住民の利便性や教育環境の充実を目的として、学校や図書館、公民館などを中心に配置したい場合があります。そこで、その区域を「特別用途地区」として、他の用途よりも公共施設の建設を優先することが認められます。
・ある市内の住宅地に、今後子どもたちの通学環境を充実させるため、学校と図書館の建設を集中的に進める区域として特別用途地区が指定される。
(b) 特例容積率適用地区
法律上の位置付け
「特例容積率適用地区とは、一定の用途地域内(=第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域, 田園住居地域, 工業専用地域を除いた用途地域内)の適正な配置及び規模の公共施設を備えた土地の区域において、建築物の容積率の限度からみて未利用となっている建築物の容積の活用を促進して土地の高度利用を図るため定める地区をいいます (9条16項)。」
この区域に指定されると、たとえば隣接する敷地間で未利用の容積(建物の大きさを示す数値)を移転し、集合住宅の共同建設や老朽化したマンションの建替えなど、効率よく土地を利用できるようになります。
・ある住宅地で、公共施設の配置により余剰となった容積率を、複数の敷地間で調整しながら新たな集合住宅やリノベーション計画に活用するケース。
(c) 高度地区
法律上の位置付け
「高度地区とは、用途地域内において市街地の環境を維持し、又は土地利用の増進を図るため、建築物の高さの最高限度又は最低限度を定める地区をいいます(9条18項)。」
ある住宅地では、低層住宅が立ち並び、日照や風通しが大切とされています。そこで、急激な高層ビルの建設によって日当たりが損なわれるのを防ぐため、建物の高さに上限を設ける「高度地区」が指定されることがあります。逆に、道路沿いや主要な通りに面したエリアでは、建物を高く建てることで土地の効率利用を促し、周囲の騒音対策として下限を設ける場合もあります。
・住宅地で急に高層マンションが建つと周囲の日照が減少する恐れがあるため、一定の高さ以上は建てられないよう制限する。
・一方、主要通り沿いでは、駅近くの高層住宅を誘導するため、最低高さを設定し、建物を高層化させる施策が取られる。
(d) 高度利用地区
法律上の位置付け
「高度利用地区とは、用途地域内の市街地における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、容積率の最高限度及び最低限度、建蔽率の最高限度, 建築面積の最低限度ならびに壁面の位置の制限を定める地区をいいます (9条19項)。」
この地区では、建物の大きさや形状に関するルール(容積率、建蔽率、建築面積、壁面の位置など)を細かく決めることで、街全体の景観や土地利用の効率化を図ります。建物がバラバラな大きさにならず、統一感のある街並みが形成される効果があります。
・市街地の一部を、オフィスビルや商業施設の集積地として計画し、各建物の容積率や高さを調整することで、無秩序な建築を防ぎ、統一感のある景観を作る。
(e) 高層住居誘導地区
法律上の位置付け
「高層住居誘導地区とは、土地の有効高度利用を通じ、利便性の高い高層住宅の建設を誘導し、職住近接の都市構造を実現するため、一定の用途地域に定められる地区をいいます(9条17項)。」
都市中心部で、働く場所と住む場所が近い構造を作るため、あえて高層住宅を建てることを促す地区です。これにより、都心にマンションが集中し、通勤の利便性が向上するとともに、都市機能の効率的な利用が可能になります。
・第一種住居地域や準住居地域などで、容積率の制限が10分の40または10分の50と決められた区域内で、高層住宅を誘導し、駅近くの職住近接型の街づくりを進める。
(f) 特定街区
法律上の位置付け
「特定街区とは、市街地の整備改善を図るため街区の整備又は造成が行われる地区について、その街区内における容積率ならびに建築物の高さの最高限度及び壁面の位置の制限を定める街区をいいます (9条20項)。」
特定街区は、再開発や大規模な新築計画などにおいて、周囲の制限よりも緩和された規制を適用し、超高層ビルなどの建築を可能にする区域です。
・都市再開発プロジェクトの一環として、中心市街地の一部において通常よりも高い建物が建てられるよう、特定街区として容積率や建物の高さの制限が緩和される場合がある。
(g) 防火地域・準防火地域
法律上の位置付け
「防火地域, 準防火地域とは、市街地における火災の危険を防除するため定める地域をいいます(9条21項)。」
これらの区域は、火災発生時に被害が拡大しないよう、建築物の構造や材料、配置などに厳しい基準が設けられています。建築基準法により、詳細なルールが定められており、火災のリスクを低減することを目的としています。
・歴史的な市街地や密集した住宅地では、防火地域に指定され、木造建築の新築や増改築が厳しく規制される。
(h) 景観地区
法律上の位置付け
「景観地区とは、市街地の良好な景観の形成を図るため、 市町村が、都市計画区域又は準都市計画区域に定める地区をいいます(8条1項6号,4項,景観法61条1項)。」
景観地区では、建物の形態やデザイン、色彩などについて一定の規制が設けられ、街並み全体の美しさを保つことを狙いとしています。これにより、古い町並みや伝統的な景観を損なわず、調和の取れた街づくりが進められます。
・歴史ある商店街や観光地では、外壁の色や看板の大きさ、建物の形状に制限を設け、景観を維持する取り組みが行われる。
(i) 風致地区
法律上の位置付け
「風致地区とは、自然美(都市の風致)を維持するため定める地区をいいます(9条22項)。」
風致地区は、街の自然な美しさを守るために、建物の大きさや形状、配置などを制限する区域です。自然環境や緑地との調和を重視し、建築物が風致にそぐわないものにならないように条例で必要な制限を設けることができます。
・東京都の明治神宮外苑や、神奈川県の鎌倉市一帯が風致地区として指定され、緑豊かな環境を保つために新築や大規模改修に制限が設けられている。
(j) 特定用途制限地域
法律上の位置付け
「特定用途制限地域とは、用途地域が指定されると、原則として特定の用途の建築物しか建築できませんが、用途地域外ではこのような制限はされません。市街化調整区域においては建築物の建築が原則として制限されていますが、区域区分が定められていない都市計画区域や準都市計画区域で、用途地域外であれば、特定の用途の建築を特に制限したい場合があります。この場合に指定されるのが特定用途制限地域です。この地域は、用途地域が定められていない土地の区域(市街化調整区域を除く)内において、その良好な環境の形成又は保持のため当該地域の特性に応じて合理的な土地利用が行われるよう、制限すべき特定の建築物等の用途の概要を定める地域です(9条15項)。」
用途地域がないエリアでは、建物の用途について明確な規制がないため、無秩序な開発が起こる恐れがあります。そこで、地域の環境や住民の暮らしに配慮して、特定の用途の建物が建てられることを制限するために「特定用途制限地域」が設けられます。
・市街化調整区域外の未整備地域で、商業施設など特定の用途に偏らないようにするため、あらかじめ用途を制限する取り組みが行われる。
補助的地域地区のまとめ
試験対策の観点から、まず覚えておきたいのは、補助的地域地区はその指定場所によって以下のように分類されるということです。
用途地域内にのみ定められるもの
・(a) 特別用途地区
・(b) 特例容積率適用地区
・(c) 高度地区
・(d) 高度利用地区
・(e) 高層住居誘導地区
これらは、用途地域の枠組みの中で、地域ごとの特性や公共施設の配置などに応じた細かい調整を目的としています。
用途地域外でも定められるもの
・(f) 特定街区
・(g) 防火地域・準防火地域
・(h) 景観地区
・(i) 風致地区
これらは、より広い市街地の整備や環境保全のために、用途地域の枠にとらわれず設定される区域です。
用途地域外にのみ定められるもの
・(j) 特定用途制限地域
これは、用途地域の指定がない地域で、土地利用の調和を図るために用いられます。
都市施設について
(a) 都市施設とは
「都市施設というのは、人が都市で生活していくうえでなくてはならない共同の施設のことをいいます。たとえば、道路, 都市高速鉄道, 公園, 上下水道, 学校、病院などです。このような都市施設については、法律上のメニューのなかから必要なものを選び出すことになります(11条1項)。」
都市施設は、私たちの生活に必要不可欠なインフラです。たとえば、道路がなければ車やバスでの移動が困難になり、公園がなければ憩いの場が失われます。また、上下水道の整備は衛生面で極めて重要です。
・新たに住宅地を開発する際には、必ず道路や公園、学校、病院といった施設を整備する必要があります。特に、下水道や公園は市街化区域及び区域区分が定められていない都市計画区域内に必ず設置しなければならないとされています。
(b) 都市施設の設置場所
「都市計画は都市計画区域内で定めるのが原則ですが、都市施設については、特に必要があるときは、都市計画区域外においても定めることができます (11条1項)。」
都市の発展や周辺環境の制約から、どうしても都市計画区域内だけでは十分な施設の整備が難しい場合もあります。たとえば、上水道の水源地付近では、必要な供給施設を確保するために、都市計画区域外に施設が設けられることがあります。
地区計画等について
地区計画は、広域的な都市計画とは異なり、比較的小規模な区域ごとにその地域の特性や住民のニーズに応じた街づくりを行うための計画です。
(a) 地区計画の基本
① 地区計画とは何か
「地区計画とは、比較的小規模な地区を単位として、それぞれの区域の特性にふさわしい街づくりを行う都市計画をいいます(いわゆる『小さな街づくり』)。」
大規模な都市計画が市全体の方向性を示す一方、地区計画は、町内や地域ごとの細かい要求に応じた計画です。たとえば、住民が集まる公園の配置や、建物の高さ、用途の制限など、地域に根ざした具体的なルールが決められます。
② 地区計画の設定可能な場所
「地区計画は、用途地域が定められている土地の区域においてはどこにでも定めることができます (12条の5第1項1号)。また、用途地域が定められていない区域でも健全な住宅市街地の良好な居住環境が形成されてけんぜんりょうこういる区域など一定の区域には定めることができます (12条の5第1項2号)。」
地区計画は、住民にとって身近な都市計画として、どのような場所でも設定が可能です。用途地域内だけでなく、用途地域が設定されていないエリアでも、良い居住環境を守るために活用されます。
③ 地区計画で定める事項
「地区計画については、当該地区計画の目標その他当該区域の整備、開発及び保全に関する方針を定めるように努め、そしてこの方針に沿って、具体的な建築規制等を盛り込んだ地区整備計画を定めることとされています(12条の5第2項)。」
地区計画では、その地域の将来像や目標を定めるとともに、具体的には以下のような事項を取り決めます。
・地区施設の配置や規模
・建築物の用途制限、建蔽率、容積率、建築面積、建物の高さなどの具体的な制限
・既存の農地に関する行為の制限など
・住宅街の地区計画では、歩行者の安全確保のために、道路幅や歩道の配置、避難施設の整備についても詳細に計画される。
・再開発エリアでは、容積率の最低限度や建物の形態についての規制が設けられ、均質で統一感のある街並みを形成する。
④ 再開発等促進区・開発整備促進区
一定の地区計画区域において、土地の合理的かつ健全な利用や、市街地の再開発・開発整備を推進するために、
・再開発等促進区(12条の5第3項)
・開発整備促進区(12条の5第4項)
が設定されることがあります。
⑤ 地区計画の届出等の制限
「地区計画の区域のうち、道路、公園等の施設の配置及び規模が定められている再開発等促進区, 開発整備促進区、又は地区整備計画の定められている区域内においては、具体的な計画実現を阻害しないため、土地の区画形質の変更や建築物の建築、工作物の建設等の行為をする場合は、一定の場合を除き、行為着手の30日前までに、必要事項を市町村長へ届け出なければなりません (58条の2第1項)。」
地区計画が設定された区域では、計画に沿った街づくりを実現するため、土地の利用や建築を行う際に事前の届出が必要となります。これにより、計画に反する変更や急な開発が抑制され、全体の調和が保たれます。
市街地開発事業について
宅建試験では、都市全体の再整備・再開発の枠組みとして「市街地開発事業」が問われます。
(a) 市街地開発事業とは
「市街地開発事業とは、法12条1項各号に掲げる事業で、具体的には、
① 土地区画整理法による『土地区画整理事業』,
② 新住宅市街地開発法による『新住宅市街地開発事業』,
③ 首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律又は近畿圏の近郊整備区域及び都市開発区域の整備及び開発に関する法律による『工業団地造成事業』,
④ 都市再開発法による『市街地再開発事業』,
⑤ 新都市基盤整備法による『新都市基盤整備事業』,
⑥ 大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法による『住宅街区整備事業』
⑦ 密集市街地整備法による『防災街区整備事業』
をいいます(4条7項)。」
市街地開発事業は、都市の基盤を整備するための大規模なプロジェクトです。これらの事業は、都市計画区域内の一体的な整備を目的としており、個々の住居や商業施設の建設だけでなく、道路や公園、公共交通機関など、都市全体の機能を高めるために実施されます。
・土地区画整理事業では、細かくバラバラだった土地を整理し、道路や公園を整備することで、住みやすい環境を作り出す。
・都市再開発事業では、老朽化したビルやインフラを一新し、新しいオフィスビルや商業施設、公共施設を一体的に整備する。
(b) 市街地開発事業等予定区域
「市街地開発事業等予定区域とは、法12条の2第1項各号に掲げる予定区域で、具体的には、
① 新住宅市街地開発事業の予定区域、
② 工業団地造成事業の予定区域、
③ 新都市基盤整備事業の予定区域、
④ 区域の面積が20ヘクタール以上の一団地の住宅施設の予定区域、
⑤ 一団地の官公庁施設の予定区域、
⑥ 流通業務団地の予定区域、
をいいます(4条8項)。」
これらの予定区域は、将来的に市街地開発事業などによる大規模な整備が予定されている地域です。計画が実施されると、その地域は一体的な再整備の対象となり、街の機能や景観が大きく変わることになります。
(c) 促進区域
「促進区域とは、都市計画区域における法10条の2第1項各号に掲げる区域で、具体的には、
① 都市再開発法の規定による『市街地再開発促進区域』,
② 大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法の規定による『土地区画整理促進区域』,
③ 大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法の規定による『住宅街区整備促進区域』,
④ 地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律の規定による『拠点業務市街地整備土地区画整理促進区域』,
をいいます(4条4項)。」
促進区域は、主に関係権利者が率先して市街地の整備や再開発を行うために、計画的な開発が促される区域です。これにより、老朽化した街区の再生や、都市全体の機能向上が期待されます。
その他の地区・地域
都市計画では、上記以外にも特定の目的をもって定められる区域があります。ここでは代表的な2種類を紹介します。
(a) 遊休土地転換利用促進地区
「遊休土地転換利用促進地区とは、市街化区域内にある、一定規模の区域の土地が、相当期間にわたり住宅の用、事業の用に供する施設の用その他の用途に供されていない場合等において、そのことが当該区域及びその周辺の地域における計画的な土地利用の増進を図る上で著しく支障となってししょう。おり、当該区域内の土地の有効かつ適切な利用を促進することが、当該都市の機能の増進に寄与する土地の区域につぞうしんいて定められる地区です(10条の3)。」
長期間使われずに空いている土地があると、地域全体の活性化が阻まれる恐れがあります。このような遊休土地に対して、より積極的に利用を促すため、用途を転換しやすくする措置が取られます。
・都市の中心部で長い間放置されていた空き地を、再び住宅や商業施設として活用するために、遊休土地転換利用促進地区として指定され、土地の活用を促進する。
(b) 被災市街地復興推進地域
「被災市街地復興推進地域とは、大規模な火災、震災その他の災害により相当数の建築物が滅失した市街地の計画的な整備改善を推進して、その緊急かつ健全な復興を図る必要があると認められる土地の区域について定められる地域です(10条の4、13条1項10号)。」
大規模災害により大きな被害を受けた地域では、早急な復興と再建が求められます。被災市街地復興推進地域に指定されると、従来の規制が緩和されたり、特別な支援措置が講じられたりして、迅速な再建が促進されます。
・震災などで多くの建物が倒壊した地域が、被災市街地復興推進地域として指定され、耐震性の高い新しい住宅や公共施設の再建が進められる。
