履行遅滞に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1.不法行為の加害者は、不法行為に基づく損害賠償債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
2.善意の受益者は、その不当利得返還債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
3.請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
4.債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
1・・・ 誤り
不法行為に基づく損害賠償債務は、加害者が損害を引き起こした時点で、その責任が発生します。つまり、損害が発生した時点で、加害者は履行遅滞に陥ります。よって、本肢は「履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」という記述が誤りです。
不法行為による損害賠償債務は、債務者が履行を求められる前に、損害の発生と同時に遅滞が生じるため、別途「履行の請求」を待つ必要はありません。言い換えれば、加害者はすでに損害が発生した段階で遅滞していると見なされます。
これは最高裁判決で示された考え方で、損害賠償債務が発生した瞬間に遅滞が生じ、催告をしなくても遅延責任を負うことが確認されています。
2・・・ 正しい
不当利得とは、法律上の正当な理由がなく他人から得た利益のことです。その場合、その利益を返還する義務があります。この義務は、返還するために請求を受けた時から遅滞の責任が生じるという点がポイントです。
そして、善意の受益者とは、不当利得を得たことを知らない人です。善意の受益者に対する返還請求は、履行期の定めがない債務として扱うので、返還を求められた時点から遅滞の責任を負うことになります。つまり、返還請求があった時から返還を遅らせた場合、遅延損害金が発生します。よって、本肢は正しいです。
3・・・ 誤り
まず、「注文者が請負人に報酬を支払う義務」と、「請負人が提供する目的物(仕事)の品質に関する責任(目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償)」が同時に履行されるべきです。つまり、同時履行の関係にあります。
そして、本肢では、注文者は、請負人の報酬債権に対して、瑕疵修補に代わる損害賠償債権を相殺する意思を示しました。つまり、注文者は請負人に対して支払う報酬の一部を、請負人が瑕疵修補をしなかったことに基づく損害賠償として差し引こうとしています。
このように相殺の意思表示をした場合、報酬の残額について、注文者がその支払いを遅滞するかどうかが問題になります。
重要なポイントは、相殺の意思表示をした時点で、注文者は残りの報酬の履行義務が生じ、その履行が遅れると遅滞責任を負うことになるという点です。
よって、本肢は「請求を受けた時から」が誤りです。正しくは、「相殺の意思表示をした時」です。
これは理解すべき内容なので、個別指導で解説します!
4・・・ 誤り
不確定期限の債務とは、具体的な期限は決まっていないけれども、その出来事が確実に起こることで履行の期限が決まるものです。例えば、「父が死んだら、土地を渡す」とか、「次に総理大臣が変わったら、支払いをする」といったようなものです。つまり、いつ履行すべきかは未確定ですが、その出来事が起こったときに履行の義務が生じます。
そして、不確定期限がある場合、債務者が遅滞責任を負うタイミングは以下の通りです。
- 期限の到来を知った時
- 履行の請求を受けた時
この2つのタイミングのうち、早い方から遅滞責任が発生します。
そして、問題文は、「債務者は、期限の到来を知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」と述べていますが、これでは遅滞責任が発生するタイミングが正しく表現されていません。
正確には、債務者は期限の到来を知った時、または履行の請求を受けた時のいずれか早い時点から遅滞の責任を負うことになります。
「履行の請求を受けた時」という記述がないので、誤りです。
令和6年(2024年):宅建試験・過去問
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