Aを売主、Bを買主として甲土地の売買契約(以下この問において「本件契約」という。)が締結された直後にAが死亡し、CがAを単独相続した場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
1.売買代金を受領したCが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示したとしても、Bは、Cに対して相当の期間を定めた催告をしなければ、本件契約を解除することができない。
2.Bが期日までに売買代金を支払わない場合であっても、本件契約の解除権はAの一身に専属した権利であるため、Cは本件契約を解除することはできない。
3.Bは、売買代金が支払い済みだったとしても、甲土地の所有権登記を備えなければ、Cに対して甲土地の引渡しを請求することはできない。
4.本件契約が、Aの詐欺により締結されたものである場合、BはCに対して、本件契約の取消しを主張することができる。
1・・・ 誤り
契約解除は、相手方が履行しない場合に行うものです。履行しない場合、まずは相手方に相当の期間を定めて履行を催促(催告)し、その期間内に履行がなければ契約を解除することができます(民法541条)。このように、通常は(原則)催告が必要です。
ただし、例外もあります。
相手方が「履行を拒否する意思を明確に示した場合」は、催告なしで契約解除をすることができます(民法542条1項2号)。つまり、相手が「絶対に履行しない」とはっきり示したときは、もう催促する必要がなく、すぐに契約を解除しても良いというルールです。
よって、本肢は「売買代金を受領したCが甲土地の引渡しを拒絶する意思を明確に表示」しているので、Bは、Cに対して催告をせずに、本件契約を解除することができます。
2・・・ 誤り
まず、相続人は、亡くなった人(被相続人)の契約上の権利や義務を引き継ぐことができます。これを「契約上の地位を承継する」と言います。つまり、Aが売主として結んだ甲土地の売買契約(本件契約)は、Aが亡くなった後もC(相続人)がその契約に基づく権利や義務を引き継ぎます。
問題文では「本件契約の解除権はAの一身に専属した権利であるため」と書かれていますが、解除権は一身専属的な権利ではありません。
一身専属的な権利とは、例えばAの生命や健康に関わるような権利のことです。契約の解除権はそのような一身専属的な権利ではないため、Aが亡くなった後でも、その権利は相続人Cに引き継がれます。
そして、相続人は、被相続人の財産に属したすべての権利義務を承継しますが、一身専属の権利以外は引き継がれます(民法896条)。
解除権は一身専属的なものではないので、Cは本件契約を解除することができます。
よって、Aが亡くなった後、契約解除権もC(相続人)に引き継がれるため、Cは本件契約を解除することができるので、本肢は誤りです。
3・・・ 誤り
まず、売買契約は「同時履行」の関係にあります。これは、売主と買主がそれぞれの義務(売買代金の支払いと物件の引渡し)を同時に履行しなければならないということです。
具体的には、Bが代金を支払っている場合、登記をしていなくても、A(またはその相続人であるC)は甲土地の引渡しをしなければなりません。
したがって、「Bは甲土地の所有権登記を備えなければ、Cに対して甲土地の引渡しを請求できない」というのは誤りで、正しい答えは「×」です。
4・・・ 正しい
民法では、詐欺により締結された契約は、詐欺を受けた本人(この場合はA)が取り消しを主張できます(Aが取り消すことができる)。さらに、詐欺を受けた本人が死亡した場合、その契約の取り消し権は本人の承継人(Aの相続人であるC)に引き継がれることになります(民法120条2項)。
つまり、相続人(C)はAの権利を引き継ぐため、Aが詐欺に基づいて締結した契約を取り消すことができるのです。したがって、Aが死亡しても、相続人であるCが詐欺を理由に契約の取り消しを主張することが可能なので正しいです。
令和6年(2024年):宅建試験・過去問
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