その他の法令上の制限
宅地建物取引士試験では、建築や土地利用に関する法律だけでなく、それらを補完するさまざまな法令が試験範囲として出題されます。これらの法令は、都市計画法や建築基準法以外にも多岐にわたるため、理解を深めることが重要です。
本章では、「その他の法令上の制限」として、特に宅建試験に頻出の法律について具体的な内容と具体例を交えながら解説します。
都市緑地法
都市部の緑地を保全し、自然環境を守るための法律です。特別緑地保全地区では、建築物の新築や土地の形質変更を行う場合、都道府県知事(または市長)の許可が必要です(都市緑地法第14条第1項)。
例えば、東京都内のある地区が特別緑地保全地区に指定されている場合、そこにマンションを建設しようとしても、許可なしに建設することはできません。
急傾斜地崩壊防止法
急傾斜地(斜面が急で崩壊の危険がある土地)において、崩壊を防ぐための法律です。急傾斜地崩壊危険区域内では、水のしん透を助長する行為や工作物の設置などを行う場合、都道府県知事の許可が必要です(第7条第1項)。
例えば、神奈川県の山間部で別荘を建てる際、その土地が急傾斜地崩壊危険区域内にあると、許可を受けなければ建設ができません。
土砂災害防止法
土砂災害が発生しやすい区域(特に「土砂災害特別警戒区域」)では、特定の建築行為が制限されます。有料老人ホームや病院など災害時に避難が難しい建築物を建てる場合、都道府県知事の許可が必要です(第10条第1項)。
広島県で過去に土砂災害が発生した地域では、新たに老人ホームを建設する際、事前に県の許可が必要となります。
地すべり等防止法
地すべりの危険がある区域(地すべり防止区域)において、地盤を緩める行為を制限する法律です。地下水の排除を阻害する行為や、地表水のしん透を助長する行為、一定の工作物の新築・改良などを行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければなりません (18条1項)。(第18条第1項)。
例えば、新潟県の山間部で道路を拡張する際、地下水を排出する設備を設置する場合は、県の許可を受ける必要があります。
大都市地域の住宅供給促進法
大都市圏における住宅供給を円滑に進めるための法律です。土地区画整理促進区域や住宅街区整備促進区域では、土地の形質変更や建築物の新築・増築に際して都道府県知事(または市長)の許可が必要です(第7条第1項、26条第1項)。
東京都の郊外で新しい住宅地を開発する場合、この法律に基づいて都知事の許可を取得しなければなりません。
都市再開発法
市街地の再開発を促進するための法律です。市街地再開発促進区域では、一定の建築物の建設が制限され、都道府県知事(または市長)の許可が必要です(第7条の4第1項)。
大阪市内の再開発地区でビルを建設する場合、都市再開発計画に適合しているかどうかを確認し、許可を得る必要があります。
土地収用法
公共事業のために土地を収用する際の手続きを定めた法律です。事業認定の告示があった後は、都道府県知事の許可なしに土地の形質を変更することはできません(第28条の3第1項)。
高速道路の建設予定地内にある土地で、勝手に建物を建てたり、地面を掘削したりすることは認められません。
森林法
森林法は、森林の適切な管理と保全を目的とした法律です。
地域森林計画対象の民有林(民間が所有する森林)のうち、地域森林計画の対象となっている森林では、開発行為を行う際に都道府県知事の許可が必要です。(森林法第10条の2第1項)
保安林及び保安施設地区保安林とは、土砂崩れや水害を防ぐために特別に保護されている森林のことです。保安施設地区も同様に重要な地域であり、これらの区域内で立木の伐採や土地の形質変更を行う場合は、都道府県知事の許可が必要です。(森林法第34条第1項・2項、第44条)
山間部でリゾート施設を建設しようとしたA社は、土地の形質を変更するために森林の一部を開発しようとしました。しかし、その森林は地域森林計画の対象となっており、許可を得るまで工事が進められませんでした。
自然公園法
自然公園法は、国立公園や国定公園などの自然環境を保護するための法律です。
特別保護地区・特別地域これらの区域では、工作物の新築・改築や土地の形状変更を行う際に、国立公園なら環境大臣の許可、国定公園なら都道府県知事の許可が必要です。(自然公園法第20条第3項、第21条第3項)
国立公園又は国定公園でも普通地域では、届出のみで一定の行為が可能となります。(自然公園法第33条第1項)
国立公園内の湖の近くにカフェを開業しようとしたB氏は、土地の形状を変更する必要がありました。しかし、その場所が特別地域に指定されていたため、環境大臣の許可を取得する必要がありました。
文化財保護法
文化財保護法は、国の重要文化財の保存を目的とする法律です。
重要文化財の変更重要文化財の現状を変更したり、保存に影響を及ぼす行為を行う場合には、文化庁長官の許可が必要です。(文化財保護法第43条第1項)
江戸時代に建てられた歴史的な建物をリノベーションしようとしたC社は、文化庁長官の許可を得るまで工事を開始できませんでした。
河川法
河川法は、河川の適正な管理と利用を目的とする法律です。
河川区域内での工作物設置河川区域内において、新築・改築・除却などの工事を行う際は、河川管理者(1級河川は国土交通大臣、2級河川は都道府県知事)の許可が必要です。(河川法第26条第1項)
ある自治体が川沿いに遊歩道を建設しようとしましたが、その区域が1級河川の河川区域内であったため、国土交通大臣の許可を取得しなければなりませんでした。
海岸法
海岸法は、海岸の保全を目的とした法律です。
海岸保全区域内の開発土石の採取、土地の掘削、盛土、切土などの行為は、海岸管理者の許可が必要です。(海岸法第8条第1項)
海沿いのホテルがビーチ拡張を計画しましたが、海岸保全区域に指定されていたため、許可を得る必要がありました。
道路法
道路法は、道路の適正な管理を目的とする法律です。
道路供用前の工事規制道路の供用が開始される前の区域では、土地の形質変更や建築物の新築・増築には道路管理者(国道は国土交通大臣、都道府県道は都道府県、市町村道は市町村)の許可が必要です。(道路法第91条第1項)
新たに開通予定の道路のそばに商業施設を建設しようとしたD社は、道路供用前であったため、許可を取得しなければなりませんでした。
港湾法
港湾法は、港湾の適切な利用や保全を目的とした法律です。港湾区域内やその隣接地域では、港湾の開発や運用に大きな影響を与える可能性のある行為について、一定の制限が設けられています。
港湾区域内または港湾隣接地域内において、港湾の開発・利用・保全に著しく支障を与えるおそれのある一定の行為をしようとする者は、原則として港湾管理者(港務局または地方公共団体)の許可を受けなければなりません。
具体例
- 大型の埋め立て工事を実施する場合
- 船舶の運航に影響を与えるような構造物を設置する場合
- 港湾施設の近くに新たな工場を建設し、排水が港湾の水質に影響を与える可能性がある場合
これらの行為が無許可で行われた場合、港湾の機能が損なわれたり、環境への悪影響が発生する可能性があります。そのため、港湾管理者が事前に審査し、適切な管理を行うことが求められます。
生産緑地法
生産緑地法は、都市部の農地を計画的に保全し、緑地の機能を維持するために定められた法律です。市町村が指定する生産緑地地区では、一定の開発行為が制限されます。
生産緑地地区内では、以下の行為を行う際に、市町村長の許可が必要です。
具体例
- 生産緑地内に住宅や商業施設を新築する
- 農地を埋め立てたり、地盤を変えたりする
- 大規模な設備を設置する
このような規制があることで、都市部の農地を守り、環境のバランスを維持することができます。
景観法
景観法は、地域の景観を守るために定められた法律です。景観計画区域内では、景観に影響を与える建築行為に対して、一定の手続きが求められます。
景観計画区域内で建築物の新築などを行う場合、事前に景観行政団体(都道府県や市町村)の長に届け出をしなければなりません。
具体例
- 伝統的な街並みが残る地域で、モダンなデザインのビルを建設する場合
- 歴史的な風景を損なうような派手な広告看板を設置する場合
景観重要建造物については、増築・改築・移転などを行う場合、景観行政団体の長の許可を受ける必要があります。
具体例
- 文化財に指定された建物を修繕・増築する
- 歴史的建造物の外観を大きく変更する
公有地の拡大の推進に関する法律
都市計画区域内で一定の土地を有償で譲り渡す場合、原則として都道府県知事(市の区域内では市長)に届出をする必要があります。
ただし、譲渡先が国や地方公共団体の場合は、この届出義務が免除されます。
具体例
- 企業が所有する土地を、個人に売却する場合 → 届出が必要
- 地方自治体が公園のために土地を購入する場合 → 届出不要
流通業務市街地の整備に関する法律
流通業務地区内では、一定の施設以外の施設を建設する場合、都道府県知事(または市長)の許可が必要です。
具体例
- 物流倉庫を建設する → 許可不要
- オフィスビルを建設する → 許可が必要
土壌汚染対策法
土壌汚染が疑われる区域(形質変更時要届出区域)では、土地の形質を変更する場合、事前に都道府県知事に届出が必要です。
具体例
- 工場跡地を住宅地にするために掘削する場合
- 大規模な駐車場を建設するために整地する場合
ただし、非常災害のための応急措置で行う場合は、届出が不要となります。
密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律
防災街区整備事業が行われる施行地区では、その施行の障害となる行為(新築・形質変更・物件の設置等)について、都道府県知事(または市長)の許可が必要です。
具体例
- 再開発エリア内での無許可の建物の増築
- 施行予定地域での新たな土地の開発
また、避難経路協定区域が設定された場合、その区域内の土地所有者は、市町村長の認可を受けることで、避難経路の整備や管理を行うことができます。
